《民藝 387号》 あいぬ玉 1985.3

mingei.jpg 1985年、日本民藝協会が発行した雑誌『民藝 387号』には「あいぬ玉」が特集されています。アイヌ玉の研究とコレクションで知られる小林泰一氏の文章(著書からの抄約)と、日本民藝館(東京・目黒)と同氏が収集したシトキ・タマサイのコレクションの写真が掲載されており、同年3月まで日本民藝館で開催されていたアイヌ工芸の企画展に対応した特集です。同氏は1940年に札幌の骨董店で小玉2個を購入して以来、アイヌ玉を集め、玉に関する考古学的な文献を購入し研究を重ねてきたということで、アイヌ玉の名称や飾り方、玉に対する土俗信仰など大まかな概要が分かる特集となっています。

 「民藝」というのは思想家の柳宗悦(1889-1961)らが提唱した概念で、柳らはそれまで「下手もの」として美術の対象として評価されることがなかった民衆の日用雑器や雑貨に「民藝美」を見出す民芸運動を展開しました。この運動は1926年(大正15年)、「日本民芸美術館設立趣意書」の発刊により始まったとされていますが、今日まで続いています。民芸運動はアイヌの文化、工芸品を高く評価しており、日本民藝館にはシトキ・タマサイのほか、アイヌの着物や小刀(マキリ)、煙草入れなどが収蔵されています。柳はアイヌの工芸品について「ただ美しいのみならず、立派でさえあり、神秘でさえあり、その創造の力の容易ならざるものを感じる」と絶賛、積極的に蒐集していたということです。

serizawa.jpg 日本民藝館はただ単に「美しさ」という基準で収蔵品を決めていました。無銘の品が多いですが、作家の手による作品も展示しています。柳は「民藝館は、美の殿堂でありたい念願によるのでありまして、その美を民藝美にのみ限っているのではございません。ただ吾々の眼や心を惹きつけた品々の大部分を、後から省みますと、それらが著しく民衆的性質のものであることに気付きました」と説明しています。つまり、美しいものを集めたら、民衆が使う日用雑器や雑貨である「民藝」が集まってしまったので、それを保存する場所を「民藝館」と名付けたに過ぎない、ということです。

 柳の「工藝の道」に感銘を受け、民芸運動に加わった染色工芸家・芹沢介(1895-1984)も自宅の応接間の鴨居からアイヌのシトキをぶら下げて飾っており(写真右上)、民芸運動のなかでアイヌの首飾りが「美しさ」の観点から注目されていたことが分かります。

 一方で、民芸運動が始まったのと同じころ、後に大蔵大臣も務める渋沢敬三(1896-1963)らがつくったアチックミューゼアムの同人が「民具」の研究を行っていました。民芸運動の中で集められたものと同じようなもの(主に陶器類を除く「身辺卑近のモノ」)を収集し研究しましたが、民具研究で重要なのは「美しさ」ではなく、それがどこでどのように使われていたという「生活のあり方」でした。

 国立民族学博物館はアイヌ玉を数多く保管していますが、この博物館の収蔵品の多くはアチックミューゼアムから受け継いだ品々を基礎としています。現在ではアイヌ玉に限らず、台湾のとんぼ玉アフリカのとんぼ玉も数多く所蔵し日本有数のコレクションを形成しています。2001年には特別展「ラッコとガラス玉」を開き、近世の北大西洋におけるガラス玉の流通について学術的な研究成果をまとめ、当時のアイヌの交易世界について考察しています。

 「美しいものを集めて愛でる民芸運動」と「生活のあり方を道具から考察する民具研究(あるいは民俗学)」では大きく異なりますが、20世紀のアイヌ玉収集は大きくこの二つ系譜の中に位置付けることができそうです。(2007.10.3) →アイヌ玉(シトキ・タマサイ)

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