左の写真は盛装しているアイヌ女性(アイヌメノコ)です。女性の首飾りの中央にある金属製の飾板をシトキといい、転じて飾板のある首飾り全体がシトキと呼ばれています。内側の玉だけのものはタマサイ(玉サイ・玉彩)といい、シトキは重い宗教的儀式に用い、タマサイは盛装した時、あるいは普通の儀式に使われたということです。アイヌ女性にとって玉類はとても大切なもので、祖母から母へ、母から娘に女の魂として代々伝えられ、家の上座にある宝物座の玉手箱などに安置されていたということです。
首に直接巻き付けられているのはレクトゥンペという飾り布で、金属製飾板が縫いつけられています。レクトゥンペが本来の『首飾り』であって、シトキ・タマサイは『胸飾り』といった方が正確かもしれません。鉢巻きはマタンプシといい、明治の中頃までは男性だけが仕事の時に髪が乱れないように頭に巻いていました。
シトキは人体に見立てられ、個々の玉に名前があるといいます。心臓にあたる飾板「シトキ」のすぐ上はサパネタマ(親玉、頭玉)、さらに上にいくに従いレクツンタマ(頸玉)、ペンラムタマ(胸玉)、ツマムタマ(胴玉)、テクンタマ(手玉)、ケマウンタマ(足玉)などと呼ばれ、タマサイは中央の大きな玉がヌムンタマ(核玉)、ポロヌムタマ(大核玉)と呼ばれるそうです。
個々の玉の形、大きさ、色、模様は多種多様で、杉山寿栄男著『
アイヌたま』は「アイヌの玉の色彩は多種多様であるが、地が浅葱色(あさぎいろ
●)の玉がもっとも多い。故にアイヌ玉といえば、すぐにこの無地の浅葱色でもって代表させて考えた傾向があるから、従来アイヌ玉は無地玉ばかりであると書かれたものであった」と説明しています。

さらに「浅葱色の表面に製作する時の気泡が穴となって表面に所々残ったものを一名「虫の巣玉」と呼ぶ」と解説しています。この虫の巣玉は江戸時代、煙草入の緒締などとしてとても珍重されていたそうで、18世紀前半の本にも「むしの巣、色浅黄色にてすきは通らず。蝦夷にて製す。つくり物なり」と記されています。
実際には後述のように蝦夷では作られておらず、山丹交易(サンタン交易)でもたらされたものだと思われますが、「つくり物なり」という説明が重要で、かつて松前藩がこの玉を徳川綱吉(在職:1680-1709年)に献上していたところ、生類憐みの令のご時世、本当に虫の巣であったらまずいということで、問題になったことがあるそうです。
虫の巣でないことを明らかにするため、松前藩では玉を火に入れて検証したことが18世紀初頭の記録に残っており、この話は1919年に発表された宮本百合子の小説「
津軽の虫の巣」の題材にもなっています。
国立民族学博物館の解説書「
ラッコとガラス玉」などによりますと、実際に確認できるアイヌの最も古いガラス玉は、現在新千歳国際空港の滑走路となっている
千歳市美々8遺跡のもので、1667年までと、1739年までの地層からガラス玉が30個ほど出土しています。18世紀から19世紀にかけ山丹交易が活発になり、アムール川流域の山丹人の手を経て主に中国製のガラス玉がアイヌの手元に蓄えられ、虫の巣玉などが松前藩などを介して本州にもたらされたということです。
1800年代以降は江戸や大坂などでとんぼ玉が豊富に生産されてアイヌ社会にもたらされました。現在各地にコレクションとして残されている大玉や派手なとんぼ玉を綴った首飾りの多くは、明治末から大正時代にかけてアイヌ観光の興隆に伴って蓄積されたものだということです。
◎シトキ・タマサイが見られるサイト
《
土佐林コレクション》
アイヌ装飾品データベース 土佐林のシトキ・タマサイのコレクションを展示しているのが
早稲田大学 會津八一記念博物館。同館の
土佐林コレクションの解説と、
タマサイ。
昭和女子大学 光葉博物館でも早稲田大学の収蔵品をもとに1995年10月に「
アイヌ民族の服飾展」を開催。展示された
タマサイ。『
トンボ玉』や『
世界のとんぼ玉』に掲載されているアイヌ玉のほとんどはこのコレクション。
《
児玉コレクション(児玉作左衛門)》
市立函館博物館による
児玉コレクションの解説。北海道白老町の
アイヌ民族博物館は児玉コレクションの
タマサイを展示。白老町HPにも同館の
タマサイが掲載されている。市立函館博物館は1998年に特別展『
北前船と蝦夷地』を開催。『
函館の幕末維新開化叢書』さんが同展の様子を詳述しており、同館所蔵の
シトキとアイヌ民族博物館所蔵の
タマサイも見られる。市立函館博物館は他にも
馬場コレクション(馬場脩)も所蔵している。
《
毛利コレクション(毛利総七郎)》
石巻市HPの
毛利コレクションの解説。コレクションの
タマサイ。
《
その他》
・
国立民族学博物館 特別展『
ラッコとガラス玉 北太平洋の先住民交易』
展示された
シトキ。特別展の
解説書。ブックレット『
世界のビーズ』も発行。
・
杉野学園衣裳博物館 タマサイ・シトキ・ニンカリ。
・北海道立埋蔵文化財センター事業 『
熊とガラス玉』 2002年6-9月
・
首里城考古ギャラリー 〔土製品〕→〔瓦質人形〕
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